柚葉通言

考えにくいことを考えるブログ

初瀬明生『止まない霧』について

 

止まない霧

止まない霧

 

 

A どういう風の吹き回しか、最近キミは本の批評をよくするね。

B 読むと云う行為の向こうには、忘れると云う端倪すべからざる未来が待っている。まァ、待っているのならそれはそれで構わない。もう一度読むと云うことが出来るからね。しかし、どうせ読んだのなら何か感想を持っておきたい。読んだだけじゃ感情で終る。そこでこうして書留のごときものを書いておいて、感情を感想にアウフヘーベンさせようと云う魂胆さ。それを人様に公開するのは、俺一流のサービスだと思っておいてください。すなわち、俺も生きているうちはたまにはサービスもする……。

A サービスと云う言葉が出た。しかしどうもキミの文章からはサービスらしきものがあまり見られない気がする。つまり、対象の作品を読んでないとなんのことやら判らない。

B それはお前、俺に作品の梗概を作れと云うことかね。やれと言われてやれないことはないが……。

A やりたくない?

B どうもそういうせせこましい作業は俺には似合わないね。

A ……まァそう言うだろうと思ったよ。ところで本作『止まない霧』は、誰かさんの小説によく似た題だね。

B 言葉の組合せはね。しかし俺の『病まない病』が和文派の響きを持つのに対して、『止まない霧』は明らかに欧文派の響きだ。

A キミは言葉にうるさいのだった。……で、それは好いとして、読んだ感想としてはどうだったんだ。

B ハッキリ引き込まれた。書き出しのところからしばらくの間、一寸地の文がゴタゴタしている印象を受けて、どうにも乗り切れない思いがしたのだが……中盤、フフッ……。

A 何を笑っているんだ。

B いや、失礼。中盤にね、主人公の男が合コンに出席するウマを友人に電話で伝えるシーンがあるんだ。そこでグイッと持っていかれた。ここに来て作者の筆は巧妙を極め、緊迫の火事のシーンになだれ込んでからは、もう一気だね。なんたる上手さだろうと思った。

A なるほど。

B しかるに、この作者の筆は「動き」を描くときや、小説が「動き」始めるときにこそ真髄を見せるけはいだ。こいつはすげぇもんだと思った。それから、物語の締め方も好い。なんとも言えない気になる。「このなんとも言えない気」というのは、単純なミステリー小説を読んでも感じられないものだ。

A ……ということは本作は、ジャンルとしてはミステリーなのかい。

B それさえも、言わない方が好いだろう。大きくくくればミステリーだが、そう思って読むと、ミステリーというジャンルが脱構築されるさまを目の前で見るおもいがするはずさ。こうなると、完成度というのは問題でない。初瀬さんの書くものにはもっと出来の好いものがいくつもあるが、だからと言ってこれを見逃しては勿体ない。変と言えば変だが、それは作者が意図しなかったところから立ち上ったけむりと見えるね。題に合わせて霧と言っても好いが、霧の生じる理由が作中で明かされてない以上、この言葉は使わぬのが礼儀だろう。……まァ三十分もあれば読めるのだから、読まないと云う選択肢はない。