柚葉通言

考えにくいことを考えるブログ

月狂四郎『悪人の系譜』について

 

悪人の系譜

悪人の系譜

 

 

狂四郎さんには、最後の無頼派と言った趣がある。(別名義であるが)『入間失格』と云う太宰を模した小説もあるし、「とにかく書きまくる」と云う姿勢はまさしく安吾的と言える。又は、自らを「炎上クソ野郎」と評する如く、些か過激な発言も目立ち、「無頼」のレッテルを進んで請け負っているけはいがする。だがそうした色眼鏡を外して、氏が手掛ける作品に目を転じてみれば、「無頼」と云う言葉はどうにも当たらないようである。ハッキリ繊細と言って好い。

しかるに、作者の「ヒール」的芸風と、見かけの荒っぽい文体に騙されそうになるが、本作『悪人の系譜』は、まさに繊細の極致とも言える、真性の技巧派の作品である。

既に氏が自身のブログで公開している『悪人の系譜』ノートを見ても判る通り、登場人物たちの相関は如何にもややこしく、右に曲がり左に曲がり……、加えて構成は、二人の視点を交互に提示しながら、過去に跳び、あっちに行き、こっちに行き、すなわち精緻を極め、しかも狂四郎一流の巧みな筆運びの所為で、読者の頭に一切の無用な努力を負わせない仕様である。あまりにも巧みなために、読む側はそれと気づかない内に物語に没頭し、確固たるハードボイルドの世界観に酔狂し、終盤の叙情的な展開に至っては、うっかりホロリとさせられる。まさにエンタメの王道とも言える出来である。少なくとも俺は、あんなにも優しい「別にいいじゃないか」を、小説の中の言葉として他に知らない。

ちなみに俺は、本作を京都発金沢行の電車の中で一気に読んだのだが、あまりにも面白かったため、読了後又最初の頁に戻って、直ぐに「精読」を始めてしまった。